むかしむかし、行基上人(ぎょうきしょうにん)という名高いお坊さんがいました。上人はとても情け深い方で、人々に大変愛されていました。ある時、有馬へ向かう途中、病人が倒れているのを見つけました。

02_1「どうしたのじゃ」
「有馬の湯に入って病気を治したいのですが、食べ物を買うお金がありません。その上、わたしは、新しい魚しか食べられないのです。」すると、上人は長州(尼崎市)まで行き、新しい魚をどっさり買ってきて、病人に食べさせました。

魚を食べた病人は、今度は「皮膚が痛くてたまりませぬ。あなたの情けで肌をなめてください。」と言いました。上人は、少しもためらわずに言われたとおりに肌をなめました。するとどうでしょう、病人の体から光が発して薬師如来様になりました。

02_2「私は温泉山の薬師如来です。あなたの情け深い心には感心しました。これから、有馬に行って、病の人々を助けてあげなさい。私もそれを助けましょう。」そう言うと如来様は、さっと消えてしまいました。

有馬に着いた上人は薬師如来をお祭りする温泉寺を建てて、病の人々を慰めたり励ましたりしました。

温泉寺には薬師如来と行基上人の像が安置されています。

むかしむかし、神戸周辺に幾日も幾日も雨が降り続いたことがありました。そのために有馬も湯が湧き出なくなり、見るかげもなく寂れていきました。それから百年程たったある年の春のことです。

03_1吉野の仁西上人(にんさいしょうにん)というお坊さんが修行をしていますと、権現様が現れました。そして「摂津の国、有馬山に温泉がある。病気によく効くので行って温泉を開きなさい。庭の木のクモに道案内をさせます。」とお告げになりました。

あくる朝、上人はさっそく有馬温泉を探しに出かけました。険しい六甲の山道を登るクモの後を追って行ったのですが、突然クモの姿が消え、どこへ行ったか分かりません。

03_2上人が途方にくれていると、真っ白いひげの老人が現れました。そして木の葉を手にして「これ が落ちたところに温泉がある。」と言って東の方へ投げ、ふっと消えてしまいました。上人は「あっ!あれは権現様に違いない!」と南の空に手を合わせて拝 み、木の葉を捜しに立ち上がりました。

次の日、山を下った上人は、木の葉を見つけ出し、それが落ちていた所を堀りました。すると、そこから温泉が湧き出たのです。これが現在の有馬温泉です。

行基上人、仁西上人、豊臣秀吉が有馬の三恩人と言われています。

むかしむかし、神戸の海辺近くの魚屋さんは毎朝とれたての魚を六甲山を越えて有馬温泉まで運んでいました。この山道を魚屋道(ととやみち)と言います。

04_1ある日、この魚屋道を若い魚屋さんが通っていました。動物好きの魚屋さんは山の中にお腹の空いた山犬がいると思い、ときどき余った魚を投げていました。「そうれ、魚だぞー!おいしい魚だぞー!」

04_2有馬温泉からの帰りが遅くなったある日のこと、六甲の山道をとぼとぼと歩いて帰る魚屋さんの前に一匹の大きな山犬が現れました。「あっ!狼だ!」あわてて逃げる魚屋さんの着物の袖を山犬は力いっぱい引っ張ります。
「ひぇ~!助けてくれ~!」
魚屋さんは大きな岩陰に引っ張り込まれました。

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04_4その時、ガサガサと大きな音がして狼の群れが山道を通り過ぎていきました。「そうか、魚のお礼に助けてくれたんだな!」この後も、魚屋さんは魚が余ると山犬に魚を分けてあげました。

今では、魚屋道はハイキングコースとして多くの人に親しまれています。

むかしむかし、六甲山でたき木を切っていた一人の木こりがひと仕事終えて有馬の近くにある滝の下まで降りてきました。「あーあ、疲れたなあ。少し横になっていこう。」

木こりは、うとうとと眠ってしまいました。

05すると、滝壷の中から巨大なクモが現れて口から糸を吐き、眠っている木こりの足首にぐるぐるっと巻き付けました。クモの所為で、ハッと目を覚ました木こりは、そっと糸を解いて、近くの切りかぶに巻き付けました。「一体、どうなるんだろう?」

やがて、ゴボゴボッと滝壷の水が渦巻いたかと思うとクモが現れて、切りかぶを滝壷に吸い込んでいきました。「アー、助かった!」その後、このクモは有馬の領主様に退治されたということです。

この他にも有馬温泉と六甲山の間に多くの滝があります。
岩に当る音が鼓の音に似ていることから名付けられた「鼓が滝」、白い石が滝壷に敷かれていた「白石の滝」(有馬にやって来た大勢の湯治客が持ち帰ったため、現在では白石は残っていません。)

06_1むかしむかし、有馬温泉の山手の谷あいには、温泉の影響で毒水が湧き出ていました。
そこにある池の水を飲むと、鳥も虫も苦しんで死んでいきました。そこで、いつしか、人々はこの地を「地獄谷」、「鳥地獄」、「虫地獄」と呼ぶようになりました。
今では石碑だけが残っています。

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